擁壁のある北摂・阪神間の家は売れない?工事の前に確かめる紙と3つの出し方
2026/09/28
「この擁壁、検査済証はありますか?」
実家の査定を頼んだ日に、いきなりこう聞かれて言葉に詰まる。擁壁(ようへき:高低差のある土地で、土が崩れないように支える壁)のある家を売ろうとすると、よくある場面です。近所の人には「売るなら直さなあかんで」と言われ、ネットを開けば「擁壁の家は売れない」「やり直しに何百万」の話ばかり。それで査定の話そのものを止めてしまっている方も、いるかもしれません。
緊急の危険がなければ、工事を決める前にできることがあります。先にやるのは、紙と目で確かめること。その順番を、北摂(大阪府)と阪神間(兵庫県)の事情に合わせてお話しします。
ただし、傾き・ふくらみ・土砂の流出や急に広がったひびなどがある場合は、売り出しや撮影よりも自治体・専門家への相談を優先してください。無理に近づいて確かめる必要はありません。
この記事で分かること
・擁壁の家で買主が気にする3つと、自分の家を「紙・目・線」で確かめる方法
・検査済証が見つからないときに市の窓口で聞くこと、大阪府と兵庫県で違う建て替えのルール
・「今のまま出す・調べてから出す・直してから出す」の選び方と、ひびの告知書への書き方
この記事を書いた人:紙谷一徳(株式会社ヒーローズプロパティ代表/宅地建物取引士/不動産業界20年)。売却だけを扱い、撮影・資料作り・内覧の立ち会いまで自分で行っています。会社案内(代表挨拶・企業理念)→ 会社案内・代表挨拶
目次
第1章:「擁壁があるから売れない」ではない理由
▶ よくある場面から
まずは、擁壁の家の売却で「よくある場面」をひとつ。実在の方ではなく、よくある話をまとめた例です。ここでは仮に、Bさんと呼びます。
箕面市の山手、1970年代に造成された分譲地に建つ築48年の木造2階建て。道路から2.5mほど高いところに家があり、道路側は石積みの擁壁、裏にはブロックが後から積み足してあります。
お母様が亡くなって空き家になり、豊中のマンションに住む娘のBさん(57歳)が相続して、売る方向で動いています。東京にいるお兄さんからは「安く手放すなよ」と言われている。風通しに行くたび、水抜き穴の下の黒いしみが気になっている。そんな家です。
査定の場で「この擁壁、検査済証はありますか?」と聞かれて、売主様が黙ってしまう。そんなとき、私はこう返します。「無いなら、次に何を確かめるかです」と。
検査済証が無いことは、それだけで「終わり」ではありません。無いなら無いなりに、確かめる順番があります。
▶ 買主と買主の銀行が気にするのは3つだけ
擁壁のある家で、買主と、買主にお金を貸す銀行が気にすることは、大きく分けると次の3つです。
1. 建て替えられるか(将来、家を建て直すときに擁壁が問題にならないか)
2. 住宅ローンが通るか(銀行が土地と建物をいくらと見るか。これを担保評価といいます)
3. いま安全か(ひび・ふくらみ・傾きがないか)

売値や売れるまでの時間には、擁壁の状態、建て替えの条件、融資の判断も影響します。そのうえで、この3つに答える材料が手元に無いことも、買主の判断を難しくします。
逆に言えば、材料をそろえて「ここまでは分かっています、ここから先はまだです」と正直に出せれば、買主は判断ができます。買う人にとって一番怖いのは「分からないこと」ですから。
▶ 私が「急かさない」理由
少しだけ、私の立場の話をさせてください。
私は家の売却だけを扱っています。擁壁の工事は請けませんし、自社で家を買い取ることもしません。工事や自社買取による利益を前提に、売り方を勧めることはありません。
工事を勧める人にも、「そのまま引き取りますよ」と言う人にも、それぞれの立場があります。どちらが悪いという話ではありません。私は「買は情報、売は信頼」と考えてこの仕事をしています。売るときは、担当者の動きが売主様から見えにくいぶん、信頼がすべて。だから、私の都合で工事や売り方を急かすことはしません。
決める前に一度、自分の家を自分の目で確かめてほしい。それがこの記事の出発点です。では、その「確かめる」を具体的にどうやるか。次の章で、紙と目と線の3つに分けて見ていきましょう。
第2章:自分の家の擁壁を「紙・目・線」で確かめる
▶ 紙:造ったときの書類を探す
まずは書類です。探したいのは次のようなものです。
・検査済証(工事後の検査に合格したことを示す書類。役所や指定確認検査機関などが交付)
・確認済証・確認通知書(工事の前に、計画が法律に合っていると認められた書類)
・造成の許可の記録(分譲地を造ったときの許可)
・分譲当時のパンフレットや売買契約書、重要事項説明書
高さが2mを超える擁壁は、原則として建物とは別の「工作物」の確認申請の対象です。ただし、開発許可や造成に関する許可を受ける場合など、別の確認申請が不要になる場合もあります。確認済証だけでなく、許可と検査の記録を合わせて探します。書類が見つからないだけで違法とは決まりません。Bさんの「道路との高低差2.5m」と、法令上の擁壁の高さも同じとは限らないため、図面と現地で確認が必要です。
実家の押し入れの奥に「家を買ったときの袋」がありませんか? 茶封筒や紙のファイルに、契約書とパンフがまとめて入っていることがよくあります。まずはそこからです。
▶ 目:高さ・種類・傷みを見る
次に、擁壁を目で見ます。見るところは3つ。
1つ目は高さ。安全な場所から、おおよその高さをメモします。擁壁に登ったり、危険な場所で測ったりせず、法令上の高さは専門家に確かめてもらいます。
2つ目は種類。専門家への確認が特に必要なのは、次の3つです。名前や見た目だけで適法性や安全性が決まるものではありません。
・空石積み(からいしづみ):石を積んだだけで、裏にコンクリートが無いもの
・増し積み:古い擁壁の上に、ブロックなどを後から積んだもの
・二段擁壁:擁壁の上に、さらに擁壁があるもの
裏にブロックを積み足してあるBさんの実家は、増し積みに当てはまるかもしれません。
3つ目は傷み。ひび、ふくらみ、傾き、それから水抜き穴(擁壁の途中にある、裏にたまった水を逃がす穴)の詰まりや濁った水の跡です。Bさんが風通しに行くたびに気になっている「水抜き穴の下の黒いしみ」も、ここでメモしておきます。
▶ 線:擁壁は誰の土地にあるか
最後が線、つまり境界です。擁壁が自分の土地の中にあるのか、隣の土地にあるのか、ちょうど境界の上に立っているのか。
費用負担を考えるには、土地の境界だけでなく、擁壁の所有者、維持管理の合意、傷みの原因も確かめます。土地の位置だけで負担者が決まるわけではありません。他人の擁壁を勝手に直したり動かしたりしないでください。隣の家とまたがっていそうなら、境界と越境の話が関わってきます。越境については別の記事で詳しく書いています → 「屋根が越境しています」と言われた大阪市の家|売る前に外せる・直せる・直せないに分ける
測量の種類(現況測量・確定測量)の違いはこちら → 不動産売却で大阪府物件の現況測量と確定測量を使い分けてトラブル回避する具体策
▶ 手を動かすこと:4枚撮る
安全な場所から撮れる範囲で、擁壁の写真を4枚そろえてください。危険な兆候があるときは撮影より相談を優先し、撮れない角度や水抜き穴は無理をしなくて構いません。
1. 正面から全体
2. 斜め左から
3. 斜め右から
4. 水抜き穴のアップ(しみや詰まりがあればそこも)
実はこの撮り方、私が売り出しの資料を作るときの撮り方とほぼ同じなんです。私は売り出しの写真撮影も資料作りも自分でしています。擁壁の家では、「全体が分かる1枚」と「気になる部分の1枚」がそろっているかで、買主の受け取り方が変わります。今撮った4枚は、そのまま売り出しの材料になります。
この3点確認と4枚の写真を、あなたの実家で一緒に見たいときは、公式LINE(公式LINEで相談する )に写真を送ってください。まだ売ると決めていなくても構いません。
さて、「紙」の欄に「ない」と丸を付けた方。ここで手を止める必要はありません。次の章で、役所で何を確かめるかを一緒に見ていきましょう。
第3章:検査済証が見つからないとき、役所で何を確かめるか
▶ 探す順番は「家の中」→「市の窓口」
まずは家の中をもう一度。重要事項説明書、売買契約書、確認通知書、分譲パンフレット。親御さんが几帳面な方なら、固定資産税の通知と一緒にしまってあることもあります。
家の中に無ければ、次は市の窓口です。建築確認(家や擁壁の計画を役所がチェックする手続き)の記録が、台帳として残っていることがあります。分譲地を造ったときの開発許可・造成許可の記録も同じです。
▶ 電話で伝えること・聞くこと
いきなり窓口へ行くより、先に電話で聞くほうが早いです。Bさんのように平日は仕事がある方なら、昼休みに電話を1本かけるところからで十分です。メモを1枚用意して、次のことを書いておいてください。
伝えること
・実家の所在地と地番(登記事項証明書や固定資産税の通知に載っています)
・家を建てた年(だいたいで構いません)
・「擁壁と建物の建築確認・検査の記録があるか知りたい」という用件
聞くこと
・記録があるかどうか
・記録の写しや証明をもらう方法(窓口・郵送など)
・手数料と、持っていくもの(相続人であることを示す書類が要るか など)
窓口の課の名前や手数料、出し方は、北摂と阪神間の各市でそれぞれ違います。そのため、この記事では課名や金額は書いていません。市役所の代表番号に「建築確認の記録について聞きたい」と伝えれば、担当の課につないでもらえることが多いです。
▶ 記録が無くても、それで終わりではない
電話してみて「記録が見つかりません」と言われることもあります。古い分譲地だと、よくある話です。
でも、それだけで売れないと決まるわけではありません。「市に確認したが記録は無かった」という事実自体が、買主に渡せる材料になります。そして記録が無い擁壁は、第5章でお話しする「調べてから出す」を考えるきっかけになります。
ちなみに私の事務所がある新大阪は、吹田市・豊中市のすぐ近くです。北摂は私にとって日常の移動圏なので、市の窓口の話も、遠い土地の話ではなく身近な話として書いています。
さて、記録を探していると、もう1つ気になる言葉に出会うはずです。「がけ条例」と「規制区域」。次の章では、この2つを大阪府と兵庫県で並べて見ていきます。
第4章:北摂と阪神間で違う建て替えのルールと、重説の「規制区域内」

この章では、大阪府(北摂)と兵庫県(阪神間)で、建て替えのルールがどう違うかをお話しします。あわせて、重要事項説明書(契約の前に買主へ説明する書面。略して重説)に出てくる「規制区域内」の1行の読み方も見ていきます。
「大阪と兵庫で違うなんて、聞いてへん」と思われたかもしれません。実家が府境のどちら側にあるかで、買主の気にする点が少し変わります。私の対応エリアは大阪府と兵庫県の阪神間にまたがっているので、両方を並べて見ることになります。
▶ 兵庫県と神戸市:距離の測り方と例外を分けて確認
兵庫県の建築基準条例では、がけ(30度を超える斜面)の表面の中心線から、原則として高さの1.5倍以上を離します。高さ2m以下、または地質により安全上支障がない場合は1倍です。岩盤や安全な擁壁などによる例外もあり、単に擁壁の足元から測るわけではありません。 兵庫県の解説
神戸市は市独自の条例・取扱いを確認します。高さ1m超・勾配30度超のがけなどが対象で、がけ上は下端から30度の線、がけ下は表面の中心線から高さの1.5倍の範囲が目安になります。許可・検査済の履歴がある擁壁でも、それだけで一律に対象外とはならず、現在の状態や建物の条件を設計者・市に確認します。 神戸市の取扱い
ですから阪神間の実家では、買主が次の2つを気にしやすくなります。「建て替えのとき、家を擁壁からどれだけ離さないといけないか」と、「この擁壁は例外に当たるか」です。
▶ 大阪府:個別に見る形
大阪府の建築基準法施行細則には、高さ2mを超えるがけの近くに建築する場合、距離・形状・土質などの図書を求める規定があります。ただし、この府の説明を北摂の各市へ一律に当てはめることはできません。 大阪府の細則
Bさんの実家がある箕面市にも市の細則があります。所在地を伝え、市の建築の窓口で適用されるルールと必要な図書を確認します。 箕面市の案内第3章の電話のついでに「この場所でがけの規制はありますか?」と一言足しておくと、手間が1回で済みます。
ここまでを1枚にまとめたのが、次の「がけのルール早見表」です。家ごとの適用や例外は、市の窓口と設計者に確認するための入口として使ってください。

▶ 重説の「規制区域内」:危ない土地に決まったわけではない
売り出しの準備を進めると、重説の案に「宅地造成等工事規制区域内」という1行が出てくることがあります。これを見て「うちの土地、急に危ないことになったの?」と驚く売主様は多いと思います。
これは2023年に施行された盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)によるものです。大阪府(政令市・中核市を除く)は2024年4月から運用が始まりました。兵庫県(指定都市・中核市を除く)と大阪市は2025年4月からです。中核市などは市ごとに指定しているので、時期は市によって違います。北摂・阪神間では、地域の広い範囲がまとめて区域に入っているところが多いです。
地域全体が指定されているわけですから、この1行だけで「あなたの土地が危ない」と決まったわけではありません。この1行だけで値段が大きく変わることも、私の見立てでは起きにくいと考えています。
ただし、区域内の土地の所有者等には安全な状態を保つ努力が求められます(第22条)。それとは別に、災害防止のための改善命令等(第23条)があり、命令違反等には罰則もあります。「努力義務だから何もしなくてよい」とは読まないでください。安全に撮れる範囲で写真を残し、変化や危険な兆候があれば自治体・専門家へ相談します。 国土交通省の案内
▶ 盛土造成地マップ:載っている=危険ではない
もう1つ、市が公表している「大規模盛土造成地マップ」に実家が載っていて、ドキッとする方もいます。大規模盛土造成地とは、谷を埋めたり斜面に土を足したりして造った広い宅地のことです。
たとえば吹田市は427か所について、2021~2023年度の調査では滑動崩落を示唆する変状は見られなかったと公表しています。これはその調査時点の結果で、個々の擁壁の現在の安全を保証するものではありません。市も、マップ自体は危険を示すものではないと説明しています。 吹田市の調査結果
マップに載っていることと、危ないことはイコールではありません。もし買主から聞かれたら、市のこうした説明をそのまま伝えてください。水害の区域について似た話を書いた記事もあります → 「浸水想定区域です」と言われた大阪市の家、値下げ材料になる?売り出し前に見る1枚と告知書の1行
ここまでで、紙・目・線の点検結果と、ルールの読み方がそろいました。いよいよ次の章で、「どう出すか」を3つから選んでいきます。
第5章:「今のまま出す・調べてから出す・直してから出す」から選ぶ

この章では、擁壁の家の出し方を3つ並べて比べます。ゴールは、工事を勧められて迷っている方が「自分の家はどれに近いか」の見当をつけること。緊急性がなければ、調査や費用を比べてから工事を判断できると分かることです。
▶ 3つの出し方の比べ表
| 今のまま出す | 調べてから出す | 直してから出す | |
| 擁壁について追加でかかるお金 | 書類取得等の費用 | 書類取得・調査の費用 | 調査・設計・工事等の費用 |
| 売り出し準備に必要な期間 | 資料・告知内容・条件を整える期間 | 左記に加えて調査期間 | 左記に加えて設計・許可・工事等の期間 |
| 買主に渡せる材料 | 写真・書類・分かったことのメモ | 専門家の調査結果 | 工事の記録・新しい書類 |
| 検討の入口 | 資料・状態・条件を確認して現況売却を相談 | 1つでも「ない・気になる・分からない」 | 専門家の確認で対策が必要 |

金額は家によって違うため、あえて書いていません。表の費用は擁壁に関する追加費用で、仲介手数料・登記・測量など売却全体の費用は別です。「お金・期間・渡せる材料」で比べますが、危険な兆候があれば左から順に試さず、専門家への相談と必要な対策を優先します。
▶ 今のまま出す
第2章・第3章で分かったことを売り出しの資料に書き、写真と書類をそろえて出す方法です。「検査済証は見つからず、市にも記録は無かった。ひびは今のところ無い」のように、分かったことと分からないことを正直に並べます。
隠さずに出すことで、買主は自分で判断できます。「分からないことは分からない」と書いてある資料は、かえって信頼されやすいと私は感じています。
▶ 調べてから出す
建築士や調査会社に擁壁を見てもらい、その結果を買主に渡す方法です。調査の費用はかかりますが、調査で分かった範囲と限界を、専門家の言葉で説明できるのが強みです。調査報告があっても、安全や住宅ローンの承認を一律に保証するものではありません。
買主の銀行の評価が厳しくなって、話がなかなか進まないこともあります。そういうとき、調べた結果が先にあると、話が止まりにくくなります。3点確認で1つでも「ない・気になる・分からない」があれば、まずここを考えるのがおすすめです。
▶ 直してから出す
補修や、擁壁そのもののやり直しをしてから出す方法です。やり直しとなると大きな工事になり、金額は擁壁ごとにまったく違います。見積もりを取るまでは、誰にも分かりません。
ここで気をつけたいのは、工事にかけたお金がそのまま売値に上乗せされるとは限らない、ということです。見積もりを取るなら、「直したらいくらで売れそうか」「直さなかったらいくらか」の見込みとセットで見てください。工事費だけを見て決めると、直したのに手元に残るお金が減った、ということも起こりえます。
緊急の対策が必要でないと確認できれば、直すかどうかを売り出し後の反応も踏まえて考えられる場合があります。大きなお金をかける前に、まず市場の反応を見る。20年この仕事をしてきて、この順番はたいていの場面で役に立つと感じています。
▶ 業者に売るという道もある
もう1つ、不動産業者にそのまま売る道もあります。私は自社で買い取ることはしません。ただ、売主様が希望される場合や、そのほうが売主様のためになる場合は、できるだけ高く買ってくれる業者を探します。3つの出し方と並べて、比べる材料の1つにしてもらえればと思います。
▶ 急かされたら、この表を見てから
第1章でもお話ししたとおり、私は工事も買い取りもしません。工事や自社買取の利益を前提に勧めず、売主様の条件をもとに比較します。
だからこそ言えるのは、「急かされたら、この表を見てから決めてください」ということです。Bさんのように、お兄さんに「安く手放すなよ」と言われているなら、なおさら。この表を家族で一緒に見れば、話し合いの土台になります。
どの出し方を選ぶにしても、最後に避けて通れないのが「告知書」です。次の章では、ひびや水のしみをどう書くかを見ていきましょう。
第6章:ひびや水のしみを告知書にどう書き、何を写真で残すか

この章では、告知書に擁壁のことをどう書くか、何を写真で残すかをお話しします。告知書は物件状況報告書とも呼ばれ、売主が知っている家の状態を買主に伝える書面です。「書いたら値下げされそう、書かなかったら後で責任を問われそう」という板挟みから抜け出すための章です。
▶ 書くのは「時期・場所・大きさ・変化」
告知書には、擁壁やがけについて書く欄があります。気づいていることがあれば、次の4つを書きます。Bさんの「水抜き穴の下の黒いしみ」なら、たとえばこうです。
・いつ気づいたか(例:2025年秋ごろ)
・どこにあるか(例:道路側の擁壁、向かって右端の水抜き穴の下)
・どのくらいか(例:黒いしみ、幅20cmほど)
・変わったか(例:この1年で広がった様子は無い)
「ひびあり」の一言だけだと、読む側は最悪の想像をしてしまいます。時期・場所・大きさ・変化まで書いてあると、「ちゃんと見ている売主さんだ」と伝わりやすくなります。
▶ ひびは定規を添えて、日付入りで
安全に近づける場合に限り、ひびの横に定規やメジャーを添えて撮ります。傾き・ふくらみなどがあれば近づかず、撮影を専門家に相談してください。大きさが一目で分かります。スマホの写真なら撮った日が記録に残りますが、紙に日付を書いて一緒に写すとなお分かりやすいです。
同じ場所を同じ角度で撮ると、見える範囲の変化を伝える材料になります。ただし、写真で変化が見えなくても安全の証明にはなりません。気になる変化があれば、次の撮影時期を待たず相談します。
▶ 知りながら告げなかった事実には、免責が効かない
私が売り出すときは、基本的に「契約不適合責任の免責」という特約を検討します。責任を負わない範囲を決める約束ですが、買主との合意が必要で、売主の立場や適用法令によって認められる範囲も変わります。
ただし、この特約には大事な例外があります。売主が知りながら買主に告げなかった事実については、免責特約があっても責任を免れません(民法572条)。 告知書に書いたかだけで決まる話ではなく、買主へ伝え、その内容を記録に残すことが大切です。 民法572条 「黙っておけば分からない」は通用しない、ということです。
だから私は、告知書と付帯設備表を、売主様と一緒にできるだけ細かくチェックします。付帯設備表は、エアコンや給湯器など、家に付いている設備の状態を書く表です。擁壁の黒いしみも、気づいているなら書く。書き方と写真で、伝わり方を整える。隠さないことが、結局は売主様自身を守ることになると、20年この仕事をしてきて感じています。
告知の考え方については、ほかにも書いています。
・浸水想定区域の家を売るとき → 「浸水想定区域です」と言われた大阪市の家、値下げ材料になる?売り出し前に見る1枚と告知書の1行
・親が自宅で亡くなった家を売るとき → 親が自宅で亡くなった大阪市の実家は事故物件?告知の線引きと確かめる3つ
ここまでで、確かめる・読む・選ぶ・書くがそろいました。最後の章で、今日から何をすればいいかをまとめます。
第7章:まとめ+今日、実家の書類箱を開けて擁壁を4枚撮る
▶ 3行まとめ
・擁壁の家は「売れない家」ではなく、買主が気にする3つ(建て替え・ローン・いまの安全)に答える材料が要る家
・材料は「紙・目・線」の3点確認で集め、紙が無ければ市の窓口に記録を聞く。ルールは大阪府と兵庫県で違う
・出し方は「今のまま・調べてから・直してから」の3つ。緊急性がなければ工事は比較したあとに判断できる場合がある
▶ 今日できること
・実家の押し入れや棚から「家を買ったときの袋」を探す
・安全な場所から擁壁を4枚撮る(正面・斜め左・斜め右・水抜き穴。無理な撮影はしない)
・3点確認シートの「紙・目・線」に丸を付ける
まずは書類箱から、できる範囲で始めてください。危険な兆候がある場合は撮影や通常の段取りを待たず、自治体・専門家への相談を優先します。
▶ 1週間以内にすること
・市の窓口に電話して、擁壁と建物の建築確認・検査の記録があるか聞く(第3章のメモを使う)
・市のサイトで、規制区域とがけのルールの案内を見る
・擁壁が隣の土地にかかっていそうなら、隣の土地の登記事項証明書を取って持ち主を確かめる。境界の確かめ方はこちら → 不動産売却で大阪府の境界ポイント確認が売却成功のカギとなる理由とトラブル防止策
・きょうだいに4枚の写真と3点確認の結果を送る
特に最後の1つは、早めがおすすめです。お正月に家族が集まる前に写真と結果を共有しておけば、その場で「どう出すか」を話し合えます。遠方の家族と進める段取りは、こちらの記事も参考にしてください → 遠方から大阪市の実家を売る|大阪に来るのは何回?来る日と任せる日
▶ 相談したくなったら
写真と、ここまでで分かったことを送ってもらえれば、今のまま出せそうか、調べてからのほうがいいかを一緒に見ます。写真を見るのも、売り出すときに撮影から内覧の立ち会いまでするのも、私本人です。
相談は公式LINEからどうぞ。
公式LINE(友だち追加):公式LINEで相談する
売ると決める前でも大丈夫です。「これって売れるんやろか」の段階の方こそ、気軽に送ってください。
▶ 動画で見る
家を売る前に、登記の紙で名義を確かめる話を1分弱の動画にしています。第7章の「登記事項証明書」とあわせて見てみてください。
家を売る前に名義を確かめる|登記事項証明書は2か所だけ見る(動画)
おわりに
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
擁壁の上の実家は、親御さんが長い時間を過ごした場所でもあります。「売れないのかも」「工事しないとダメなのかも」と一人で抱えていると、どうしても気持ちが重くなりますよね。
でも、やることは意外とシンプルです。紙を探して、目で見て、線を確かめる。分かったことを正直に出す。緊急の対策が必要でなければ、工事はその後に比較して判断できます。
次の週末、実家の書類箱を開けて、安全な場所から撮れる範囲で擁壁の写真をそろえてみてください。それだけで、見えるものが少し変わるはずです。あなたが納得して、家族にも説明できる形で実家を送り出せるよう、私も応援しています。










