きょうだいで相続した大阪市の実家、「全員の同意」の前に揃える4つの材料
2026/09/16
親が亡くなって、実家はまだ親の名義のまま。固定資産税は自分が立て替えていて、実家に住んでいる兄は売る話を避け、遠くに住む弟は「任せる」だけ。ネットで調べると「共有名義の売却には全員の同意が必要」と出てきて、何もできない気がしてスマホを閉じる…。もしそんな夜を過ごしているなら、この記事はあなたに向けて書いています。
「全員の同意」は、たしかに最後に必要です。でもそれはゴールであって、スタートではありません。同意の前に揃えておく材料が4つあります。実勢価格、分け方、名義、そして登記前に進められる範囲。この4つが揃うと、話し合いの空気がかなり変わります。読み終わるころには、きょうだいに「これを一緒に見てほしい」と切り出す一言と、その後の順番が決まっているはずです。
目次
第1章:「全員の同意が要る」は行き止まりではない——止まっている実家がいま「どの型」かを見分ける
▶ 10月の日曜の夜、Aさんのリビングで
架空の例ですが、Aさん(58歳)は吹田市のマンションに夫と2人暮らし。昨年の夏にお母さまを亡くし、大阪市東住吉区にある築47年の実家は、まだお母さまの名義のままです。相続人は3人。介護のために5年前から実家に住んでいる兄(62歳)、Aさん、東京に住む弟(55歳)。固定資産税の年約7万円は、Aさんが2年続けて立て替えています。
来週、弟が帰省すると決まりました。「実家の話をしたい」のに、何を持って行けばいいのか分からない。兄に「売ろう」と言えば「追い出すのか」と取られそうで言えない。昼間に届いた「共有持分、買い取ります」というDMを捨てかけて、手が止まる。そんな夜です。
最初にはっきり書いておきますね。この記事は、兄を追い出す方法でも、持分だけをこっそり売る方法でもありません。3人が同じ材料を見て、同じテーブルで話せる状態を作る方法です。
▶ 「同意」は最後に署名が揃うかどうかの話
「全員の同意が必要」という言葉、実務ではとても具体的な意味を持っています。遺産分割協議書(誰が何を相続するかを決めて、相続人全員が実印を押す書類)に、全員の署名と印鑑証明が揃うこと。これが「同意」の実体です。同意は話し合いの入口で取り付けるものではなく、材料が揃った結果として最後に出てくるもの。その材料が、①実勢価格 ②分け方 ③名義 ④登記前に進められる範囲、の4つです。この記事では、この4つをまとめて「合意の4材料」と呼びます。
そして、揉めるのは特別な家ではありません。令和6年に全国の家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件は15,379件。そのうち約76%は、遺産の総額が5,000万円以下だったとされています。築古の戸建てひとつをどう分けるか、という「普通の家」の話がほとんど。あなたの家が特別にこじれているわけではないんです。
▶ うちは「どの型」か——4型表
まず、いまの実家がどの型にいるかを見てください。縦が登記の状態、横がきょうだいの温度です。
| 全員前向き | 1人反対・無反応 | |
| 親名義のまま | 材料4(登記前の範囲)を知れば動ける | 材料1・2(価格と分け方)から揃える |
| 共有登記済み | 材料3(名義と署名の範囲)を確認して売り出し | 材料1・2に加え、第6章の3択を並べる |
Aさんの家は「親名義のまま × 1人反対・無反応」。いちばん多くて、いちばん止まりやすい型です。でも足りない材料は「価格と分け方」とはっきりしていて、どちらも代表相続人1人で用意を始められます。
▶ 合意が崩れるのには順番がある
私はこの業界で20年、相続した実家の売却に立ち会ってきました。その経験で言うと、きょうだいの合意が崩れるときには決まった順番があります。最初に価格の認識がずれる。次に、立て替えた税金や手間の不公平感が出る。そして最後に「お前は昔から」という感情論になる。
逆に言えば、最初の「価格の認識」を揃えるだけで、その後の2段階に進みにくくなります。だから材料の1つ目は実勢価格なんです。
第2章:材料1「実勢価格」——固定資産税評価額でも路線価でもない、全員が同じ数字を見る
▶ 3人が見ている3つの値段
「いくらで売れますか?」——この質問、家族の中では3通りの答えを持っています。

| 値段の名前 | 何のための数字か | 誰が見がちか |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税を計算するための数字。納税通知書に載っている | 納税通知書を手にしている兄 |
| 相続税評価額(路線価など) | 相続税を計算するための数字 | 相続税のことを調べた人 |
| 実勢価格 | いま売りに出したら、いくらで買い手がつくかの数字 | 査定を取った人・ネットの相場を見た弟 |
同じ家なのに、3つの値段は用途がまったく違います。兄は納税通知書を見て「この家、評価額だと数百万やろ」と言う。弟はスマホで「ネットで見たら2,000万くらいで出てるで」と言う。あなたは一括査定の最高値を見て「もっと高いはず」と思っている。全員が本気なのに、見ている数字が違う。これでは会話が噛み合いません。
▶ 最初の行動:机上査定を1社から取って、同じPDFを全員に送る
ここでやることは、とてもシンプルです。
1. 机上査定(現地を見ずに、住所・面積・築年数などから出す概算の査定)を、不動産会社1社に依頼する
2. 出てきた査定書を、PDFのまま兄と弟に送る
3. 「この数字を一緒に見てほしい」とだけ添える
机上査定は、代表相続人1人で取れます。全員の同意も、登記も要りません。用意するのは、納税通知書と、できれば登記事項証明書(法務局で誰でも取れる、登記の内容を証明する書類)くらい。
ポイントは「同じPDFを送る」こと。口頭で「○○万くらいらしい」と伝えると「あなたの意見」になってしまいます。第三者が出した同じ1枚を3人で見れば、それは「材料」になる。
▶ 大阪市の築古戸建て・長屋は「対象外」と返ることがある
Aさんの実家のように、築47年で前面道路が4m未満の私道、という物件は大阪市の下町ではよくあります。ただ、この手の物件は一括査定サイトに入力すると「対象外」と返ってくることがあるんです。長屋や連棟(隣の家と壁がつながっている家)、再建築不可(建物を壊すと同じ場所に建て直せない土地)も同じ。
これは「売れない」ではなく、サイトの仕組みが合わないだけ。地場で現地を見ている会社に直接聞くほうが早いです。再建築不可の考え方はこちら → 大阪の再建築不可を高く売る方法!損しない売却・買取相場解説
▶ 査定は「売値」ではなく「手取り」まで1枚に
きょうだいに見せる数字は、売値ではなく手取りまで落としたほうが揉めにくいです。売値1,500万円と聞いて「500万ずつやな」と思っていた。ところが仲介手数料や測量、残置物の処分、税金を引いたら思ったより少ない。ここで「聞いてない」が始まります。
売却でかかる費用の一覧 → 不動産売却費用(大阪)一覧とシミュレーション!手取り額の計算
実家の中の物を先に処分すると損しやすい理由 → 大阪市の実家を不動産売却|残置物を先に処分すると損する3つの理由
私たちは売却専門で、自社で買い取ることをしていません。だから査定の数字を「うちが買うならこの金額」と低めに寄せる理由がないんです。査定は、きょうだい3人が同じテーブルにつくための共通言語。住んでいる兄にも、同じ1枚をお渡しできます。
同じ数字が揃うと、次に決まって出てくるのが「で、どう分けるの?」です。ここから先は、分け方の名前と、それで手取りがどう変わるかを見ていきます。
第3章:材料2「分け方」——換価分割か代償分割かで、控除を使える人と手取りが変わる
▶ 分け方は2つ。売って分けるか、1人がもらって他に払うか
・換価分割(かんかぶんかつ):実家を売って、その代金を3人で分ける
・代償分割(だいしょうぶんかつ):兄が実家をもらい、その代わりに兄がAさんと弟に「代償金」というお金を払う
どちらが正解ということはなく、兄が住み続けたいのか、代償金を払える原資があるのか、で決まります。
▶ 相続空き家の3,000万円控除は「誰が使えるか」が分け方で変わる
ここからがお金の話です。相続した実家を売ると、譲渡所得(売値から取得費と諸費用を引いた利益)に税金がかかります。ただし条件を満たす相続空き家には「3,000万円特別控除」があって、利益から最大3,000万円を引けます。使えるのは2027年12月31日までの譲渡(売却)で、相続人が3人以上なら1人あたり2,000万円です。
条件の骨子は「昭和56年5月31日以前に建った家」「亡くなった人が1人で住んでいた」「相続から3年目の年末までに売る」「売値1億円以下」「耐震工事か取り壊し」など。詳しくはこちら → 老人ホームに入った親の実家、3,000万円控除が使えるのは3年目の年末まで
ここで分け方が効いてきます。

・換価分割で3人が売主になる場合:3人それぞれが「売った人」なので、各人が控除を使える可能性があります
・代償分割で兄が家をもらう場合:家を売る(または持ち続ける)のは兄だけ。Aさんと弟が受け取る代償金は「家を売った代金」ではないので、控除の対象にはなりません
「兄が住み続けるなら代償分割」と決めることは、Aさんと弟が「控除を使う権利を手放す」ことでもあるんです。細かい適用の可否は家ごとに違うので、最終的には税理士さんに確認してください。
▶ 架空の試算で、手取りの差を見てみる
架空の例で1表にします(すべて仮の数字です)。前提はこうです。
・売値:1,500万円
・諸費用(仲介手数料・測量など):仮に60万円
・取得費:親がいくらで買ったか分からないので、売値の5%=75万円(概算取得費)
・譲渡所得:1,500 − 75 − 60 = 約1,365万円。3人で売れば、1人あたり約455万円
・税率:長期譲渡(所有5年超)の約20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)
| 分け方 | 控除 | 税金のイメージ | 3人の手取り合計(売値−諸費用−税金) |
| 換価分割で3人が売り、3人とも控除を使える場合 | 1人2,000万円まで | 1人あたりの利益約455万円は控除の枠に収まるので、ほぼ0円 | 約1,440万円 |
| 換価分割で売ったが、控除を使えない場合 | なし | 約1,365万円 × 20.315% ≒ 約277万円 | 約1,163万円 |
差は約277万円。同じ家を同じ値段で売っても、控除を使えるかどうかでこれだけ変わります。3人で割れば1人あたり90万円ほど。「兄ちゃんが住んでるならそのままでええんちゃう」と言っていた弟も、この差を見ると話の聞き方が変わるかもしれません。取得費が分からない家の5%ルールはこちら → 大阪市の不動産売却で税金が数百万増える|取得費不明の5%ルール
▶ 代償分割なら「代償金の原資」が現実の判断材料になる
「兄が住み続ける」を選ぶなら、兄はAさんと弟に代償金を払うことになります。実勢価格1,500万円なら、単純に3等分して2人に500万円ずつ、合計1,000万円。この原資が兄にあるか、が正直な判断材料です。
家を担保にローンを組む方法も理屈の上ではありますが、築古で再建築に制限のある家では組みにくいのが実情です。「兄は住み続けたい。でも1,000万円は払えない」となったとき、初めて「じゃあ全員で売って、兄は住み替える」が現実味を帯びてきます。
私はFP2級(ファイナンシャル・プランニング技能士2級)の資格を持っています。だから、こうした「分け方と手取り」を1つの表に置いてお見せできます。ただ、税額の最終判断は税理士さんの領域。「この表を持って税理士さんに行けば話が早いですよ」というところまでが私たちの担当です。
分け方が決まったら、次は「誰の名義で売るか」。これが3つ目の材料です。
第4章:材料3「名義」——誰の名前で売るかで、控除の人数と贈与税の見え方が変わる
▶ 換価分割の登記には2つの型がある
「売って分ける」と決めても、相続登記(親の名義から相続人の名義に変える登記)をどうするかで2つの型に分かれます。

| 共有登記型 | 単独登記型 | |
| 登記 | 3人の共有名義(持分3分の1ずつ)にする | 便宜上、代表者1人(例:Aさん)の名義にする |
| 売主 | 3人 | 代表者1人 |
| 代金の流れ | 3人それぞれが持分に応じて受け取る | 代表者が受け取り、協議書どおりに2人へ分ける |
| 契約書の署名 | 媒介契約書・売買契約書に3人全員の署名(または委任状) | 代表者1人の署名 |
表だけ見ると「単独登記型のほうが楽そう」と思いますよね。東京の弟に毎回ハンコをもらわなくていい。実際、手続きの楽さでは単独登記型に分があります。ただ、この型には2つ、先に知っておいてほしい点があります。
▶ 単独登記型の贈与税は「協議書に書いてあるか」で決まる
1つ目は贈与税です。単独登記型で「Aさんが受け取って、兄と弟に分ける」と聞くと、「それってAさんから2人への贈与にならないの?」と不安になる方が多いです。この点は国税庁の質疑応答事例に答えがあります。遺産分割協議で換価分割と決め、代金が協議どおりに分配されるのであれば、贈与税の問題にはならないとされています。
ただし前提は、協議書に「換価分割である」ことと「分配の割合」が書かれていること。ここが抜けていると「Aさんが相続して、あとで2人にお金をあげた」に見えてしまいます。
▶ ただし、控除を使える人数が変わりうる
2つ目は控除の人数です。第3章の3,000万円控除は「家を売った人」が使う制度です。単独登記型では売主がAさん1人になるので、控除を使えるのもAさん1人分になる可能性があります。共有登記型なら3人が売主なので、3人それぞれが使える可能性がある。
ここは正直に書きます。単独登記型でも協議書で定めた全員が使えるという見方もあります。ただ、国税庁がこの点を明確に示していないため、税理士さんの間でも見解が分かれています。私たちから言えるのは、「単独登記型のほうが手続きは楽だけれど、控除の人数が変わるかもしれない。だから登記の型を決める前に税理士さんに聞いてほしい」ということ。手続きの楽さだけで選ぶと、第3章の試算のような差が出るかもしれません。
相続した実家の売却の流れ全体はこちらで書いています → 大阪で相続した実家を売却する流れ!節税特例や名義変更を解説
▶ 協議書に「入っているか確認する5項目」
協議書の文案は司法書士さんの領域なので、ここでは書きません。代わりに、出来上がった協議書を見たときに「入っているか」を確認する5項目をチェックリストにしておきます。
□ 換価分割である旨:「売却して代金を分配する」と書いてあるか
□ 分配割合:3等分なら「各3分の1」
□ 諸費用の負担:仲介手数料・測量・解体・残置物処分を、代金から先に引くのか
□ 立替の精算:立て替えた固定資産税を、代金から先に精算する旨
□ 窓口となる代表者:不動産会社とのやりとり、契約、代金の受け取りを誰がするか
特に4つ目。「2年分の税金を私が払ってきた」という不公平感は、話し合いのたびに顔を出します。これを協議書に「代金から先に引く」と1行入れるだけで、感情の話から事務の話に変わります。
▶ 「全員の同意」の実務上の意味は、署名の範囲
宅建士として言えるのは、ここです。共有登記型なら、媒介契約書(不動産会社に売却を依頼する契約)にも売買契約書にも、3人全員の署名が要ります。遠くに住む弟が来られなければ委任状。単独登記型なら、代表者1人の署名で進む。
「全員の同意が必要」というのは、「全員が乗り気でないと何も始まらない」ではありません。「協議書と契約書に誰の署名が要るか」という具体的な話なんです。そして協議書が完成すれば、相続登記が終わっていなくても売る準備は始められます。それが4つ目の材料です。
第5章:材料4「登記前に進められる範囲」——2027年3月の期限に追われても、相続登記の前に売り出しはできる

この章では、「登記が終わるまで何もできない」という誤解を解きます。協議書が完成した時点で売買契約まで進められること。そして連絡が取れないきょうだいがいるときの分岐の名前。この2つが分かるようにします。
▶ 2027年3月31日は「過去の相続」の登記期限
相続登記は2024年4月から義務になりました。相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に申請する決まりで、Aさんのお母さまの分(2025年夏の相続)なら、期限は2028年の夏ごろです。
一方、2024年4月より前に起きた相続の分は、まとめて2027年3月31日が期限になっています。たとえば、10年前に亡くなったお父さまの名義がまだ残っている家。こちらは、あと半年ほどで申請しないと、10万円以下の過料(行政上の罰金のようなもの)の対象になりえます。
急かすつもりはありません。ただこの期限が、「誰の名義にするのか=売るのか、誰かが持つのか」を決める区切りになったのは事実です。相続登記の手順と費用はこちら → 大阪の相続登記してない家を売る手順!義務化の注意点と現金化術
▶ 私たちの実務:協議書があれば、登記前でも売買契約まで
ここが私たちの現場そのものの話です。相続登記が終わっていなくても、協議書が完成していれば次まで進められます。
1. 媒介契約(不動産会社に売却を依頼する契約)
2. 売り出し(写真撮影・図面作成・SUUMOへの掲載・内覧の立ち会い)
3. 売買契約(買主と契約を結び、手付金を受け取る)
登記前にできないのは、決済(引渡し)だけ。決済では買主に名義を移すので、その前に相続登記が完了している必要があります。住宅ローンが残っていれば、抵当権(ローンの担保として銀行が付けている権利)の抹消も同時に必要です。相続登記から抵当権の抹消まで、私たちの経験では数週間から数か月。買主を探している期間に、司法書士さんの手続きを並行して進めるイメージです。登記前にできること・できないことの表はこちら → 団信でローンが消えても、すぐには売れない|夫名義の大阪市の家を妻が売るまでの順番
▶ 「協議書の完成」が、4つの材料の行き先
材料1で数字を揃え、材料2で控除と手取りを見せ、材料3で協議書の中身を決める。この3つは協議書の完成に向かっていて、できた瞬間に材料4で売り出しまで進める。4つの材料は、1本の道なんです。
▶ 分岐①:動かない弟には、協議書と委任状を先回りで
「任せる」としか言わない弟は、反対しているわけではありません。ただ、自分から動くことはない。この場合は、Aさんが先に書類を用意するのが現実的です。協議書の案と、委任状(弟の代わりにAさんが契約手続きをするための書類)。この2つを「これに署名と印鑑証明だけお願い」と渡す。「ここに署名」まで落とすと動きます。
弟さんが海外にお住まいなら、印鑑証明の代わりの書類(在外公館のサイン証明など)が必要になります。ここは一律には言えないので、司法書士さんに確認してください。
▶ 分岐②:連絡が取れないきょうだいがいる場合
反対でも無反応でもなく、そもそも連絡が取れない。この場合は、士業の領域になります。名前と要件だけ挙げておきますね。
・所在等不明共有者の持分取得・譲渡の制度:2023年の民法改正でできた仕組み。裁判所の手続きを通じて、行方の分からない共有者の持分を扱えるようにするもの。ただし相続でできた共有は、相続開始から10年を経過していることが要件
・不在者財産管理人:相続開始から10年未満なら、こちらが候補。家庭裁判所が選んだ管理人が、不在の人に代わって遺産分割に加わる
どちらも、まず司法書士さんか弁護士さんに「うちはどちらか」を聞くところからです。
ここまでで4つの材料が揃いました。ただ、材料が揃っても止まることがあります。次の章は、その場面です。
第6章:材料が揃っても止まるとき——住んでいるきょうだい・持分買取の電話・立替えた固定資産税

この章では、「兄が住んでいる限り無理」と「持分だけ売れば早い」という2つの極端から離れます。代わりに、3つの選択肢を同じ実勢価格で並べる見方を手に入れます。住んでいる側の兄が読んでも、悪者にされたと感じない書き方で。
▶ 住んでいるきょうだいには、住む権利がある
共有名義(または共有になる予定)の家では、共有者はそれぞれ家全体を使う権利(使用収益権)を持っています。だから、他の共有者が一方的に「出て行って」と求めることはできません。兄が実家に住んでいるのは、法律の上では何もおかしくないんです。
そしてもうひとつ。兄は5年前から介護のために実家に入りました。「兄が住んでいるから売れない」の前に、「兄が住んでいてくれたから空き家にならなかった」という見方もあると思います。
▶ 3択を、同じ実勢価格で並べる
「売るか売らないか」の2択にすると、兄は「売る=出て行け」と受け取ります。3択にして同じ査定の数字で並べると、兄にも選べる余地ができます。

| 選択肢 | 兄はどうなる | Aさん・弟はどうなる | 3,000万円控除 |
| ①兄が住み続け、2人の持分を引き取る(代償分割) | 家に住み続ける。代わりに代償金を払う(例:2人に500万円ずつ、計1,000万円) | 代償金を受け取り、家の権利を手放す | 使えるのは兄が売るときだけ。2人は使えない |
| ②全員で売って、兄は住み替える | 住み替え先を探す。代金の3分の1が住み替えの原資 | 代金の3分の1ずつ受け取る | 3人それぞれが使える可能性 |
| ③今は売らず、税の分担と「見直し日」だけ決める | 住み続ける。固定資産税は3分の1を負担 | 立替をやめる。固定資産税は3分の1ずつ | 先送り。2027年12月31日の期限を過ぎる可能性 |
③は「何も決めない」ではありません。「今は売らない。固定資産税は3人で分ける。来年の○月にもう一度この表を見る」と決めること。これだけで、Aさんの不公平感は解消しますし、兄は追い詰められずに済みます。
大阪市の下町の築古の戸建てや長屋で、こうしたきょうだい共有の話を私たちもよく見かけます。住んでいる側にも売りたい側にも、同じ表をお出しする。それが私たちのやり方です。
▶ 「持分だけ買います」の電話・DMが来たら
Aさんの手が止まったDM。共有持分(自分の3分の1の権利)だけを買い取る、という業者からのものです。持分だけを買う業者は、買ったあとで他の共有者と交渉したり転売したりする前提で値段を付けます。だから買取価格は、実勢価格の3分の1からさらに大きく下がる。業者のサイト自身が「相場の30〜50%引き」と書いているくらいです。
「囲い込みはしないですか?」という質問を、私たちはよくいただきます。この記事の文脈で言い換えると、「持分を安く買って、兄に迫るような業者ではないですか?」ですよね。私たちは売却専門で、持分の買取をしていません。だから兄の側にもAさんの側にも、同じ表をお出しできます。
乗る前に、3点だけ確かめてください。「乗る前の3点」です。
1. 差額を見たか:全員で売ったときの手取り(第3章の表)と、持分だけを売った金額の差を数字で見たか
2. 兄は知っているか:持分を売ると、兄は「知らない業者と共有」になる。それを伝えたか
3. 先にきょうだいに打診したか:同じ金額なら兄や弟が持分を引き取る選択肢もある。業者より先に家族に聞いたか
3つとも「まだ」なら、DMは保管だけして、返事はしないでください。急かされる理由は、あなたの側にはありません。
▶ 立て替えた固定資産税は「代金から先に引く」で解決する
Aさんの2年分の立替、約14万円。金額そのものより「私だけが払っている」という気持ちが重いんですよね。これは第4章の5項目のとおり、協議書に「売却代金から先に精算する」と入れることで解決します。③現状維持を選ぶなら「今年からは3人で分ける」と決めるだけでも気持ちが変わります。
▶ 弁護士の領域:調停・審判・共有物分割請求
話し合いそのものが成り立たないときの手段は3つあります。遺産分割調停(家庭裁判所で調停委員を交えて話し合う)、審判(調停がまとまらないとき裁判所が決める)、共有物分割請求(共有登記済みの場合に、共有の解消を裁判所に求める)。ここは弁護士さんの領域なので、「決裂したら、まず弁護士さんへ」とだけ。ただその前に、4つの材料を一度は揃えてみてほしい、というのが正直な気持ちです。
最後の章では、材料を1つの表に戻して、今日からの行動を決めます。
第7章:まとめ+次のアクション——今日・1週間以内・相談したくなったら
▶ 合意の4材料、1枚で
| 材料 | 何を揃えるか | 誰が動けるか |
| 1 実勢価格 | 机上査定1社、同じPDFを全員に | 代表相続人1人 |
| 2 分け方 | 換価分割か代償分割か。控除を使える人と手取り | 表を持って税理士へ |
| 3 名義 | 共有登記型か単独登記型か。協議書の5項目 | 司法書士と一緒に |
| 4 登記前の範囲 | 協議書があれば売買契約まで。決済は登記後 | 私たちのような仲介 |
Aさんの型(親名義のまま × 1人反対・無反応)なら、入口は材料1。同じ査定を3人で見るところからです。
▶ 今日できること
1. 納税通知書と、立て替えた税金の領収書を1つの封筒に入れる。「払った証拠」と「評価額」の材料になります
2. 登記事項証明書を1通取る。本当に親名義のままか、抵当権が残っていないかが分かります
3. 持分買取のDMは保管して、返事はしない
▶ 1週間以内にすること
1. 机上査定を1社から取り、PDFのまま兄と弟に送る。文面は「この数字を一緒に見てほしい」だけで十分です
2. 第3章の分け方の表と、第6章の3択の表を印刷する。次にきょうだいが集まる日に持って行く材料になります
3. 兄に「追い出したいわけじゃない」と先に伝える。この一言があるかどうかで、兄の聞き方が変わります
▶ 相談したくなったら
・登記と協議書の文案は 司法書士
・控除が誰に使えるか、税額の最終判断は 税理士
・話し合いが決裂したら 弁護士
・売却の段取り、登記前にどこまで進められるか、きょうだい全員に配れる査定は 私たち
私たちは大阪市淀川区(新大阪駅の近く)で、売却だけを専門にしている不動産会社です。売りたい側にも、住んでいる側にも、同じ表をお出しします。「材料だけ揃えたい」という段階でも大丈夫。サイト heroes-property.jp か、メール info@heroes-property.co.jp からどうぞ。
おわりに
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
「全員の同意が必要」で止まっていた実家が、「うちは材料が足りなかっただけ」に変わっていたら、この記事を書いた甲斐があります。兄を責める必要も、弟に焦れる必要もありません。同じ数字を、同じテーブルで見る。それだけで、話は動き始めることが多いです。
そして、材料を揃えた結果「今は売らない」と決めるのも、立派な答えの1つ。税の分担と見直し日だけ決めていったん置く。それも「終わった」状態のひとつだと、私たちは思っています。
弟さんが帰省したら、封筒と1枚の査定を持って、テーブルについてみてください。あなたの実家の話が、少しでも軽くなりますように。











