実家は相続放棄する?売る?|大阪市の家で、3か月のうちに値段を知る
2026/10/29
実家のポストに、亡くなった父あての信用金庫のはがきが入っていた。「借金があるのかもしれない」と思った瞬間、片付けかけていた手が止まった。そんな方に向けて、この記事を書いています。
先に答えを3行で
- 相続放棄をするかどうかは、弁護士・司法書士と決めることです。不動産会社が出せるのは「売れるか・いくらか・何か月か・いくら残るか」という家の材料だけです。
- 比べる出発点は「借金」と「家を売った後に残るお金+ほかの相続財産」。金額だけで決めず、期限や不明な債務も確かめます。古い長屋でも、決める前に一度、値段の目安を聞いておく価値があります。
- 今日できるのは、まず申立期限を確認し、家財には触らずに、固定資産税の通知書と権利証(登記識別情報)の置き場所だけ確かめることです。
書いているのは、大阪市淀川区・新大阪で家の「売却」だけを扱っている株式会社ヒーローズプロパティの紙谷一徳です。この仕事を20年続けてきて、宅地建物取引士として今は売主様の側だけに立っています。最初に線を引いておくと、私は「放棄したほうがいい・しないほうがいい」は決めません。この記事で書くのは、決めるために必要な「家の値段・期間・手取り」の集め方です。
関連動画|不動産売却の教科書 第17回(約17分)
2026年10月29日20時公開予定。公開前は再生できません。相続して売ると決めた後の手順を扱う動画です。
読みながら「うちの家、値段がつくのかな」と思ったら、公式LINEに一言どうぞ。放棄するかを決める前でも大丈夫です。→ 公式LINEで相談する
目次
第1章:「放棄するしかない?」と思ったら、3か月の数え方と誰に何を聞くかを知る
▶ 茨木へ帰る電車の中で
説明のための例として、Aさんという方を思い浮かべてください(架空の方です)。52歳、茨木市の会社に勤めていて、奥さんと大学生の娘さんと暮らしています。お母様は5年前に亡くなり、お父様が大阪市東成区の古い2軒続きの長屋に一人で住んでいました。そのお父様が、9月の半ばに亡くなりました。
10月最後の木曜、片付けに行った帰りの電車。ポケットには、さっきポストで見つけた信用金庫のはがき。お父様は昔、小さな工場をやっていました。借入や、誰かの保証人になっていたかどうかは分かりません。
スマホで「相続放棄 実家 売却」と打ってみる。出てくるのは、法律事務所の手続きの説明と、「売却がおすすめ」という不動産会社の記事です。「この家、いくらで売れるんやろ」「でも不動産屋に聞いたら、売る方向に持っていかれへんかな」。東京にいる妹さんには、まだ何も話せていません。
もし、これがあなたのことなら。まずは3か月の数え方から一緒に見ていきましょう。
▶ 3か月は「知った日」から、一人ずつ数える
相続放棄ができるのは、「自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内」です(民法915条1項)。原則の起算点は、亡くなった事実と、それによって自分が相続人になった事実を知った時です。死亡日と同じ日になる方も多く、借金を見つけた日から数え直せるとは限りません。しかも相続人一人ひとり別々に数えます。Aさんのようにすぐ知らせを受けた方なら、9月半ばに知ったとして12月半ばが目安です。ご自身の起算日がいつになるかは、弁護士・司法書士に確かめてください。
それから、知っておくと気が楽になることが3つあります。
- 期間を延ばしてもらえることがある:調べきれないときは、期限内に家庭裁判所へ期間伸長を申し立てる方法があります。認められるかは裁判所が判断します(民法915条1項ただし書)
- 放棄の前に、財産を調べてよい:法律に「相続人は、承認や放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる」とあります(民法915条2項)
- 一度した放棄は、期間内でも撤回できない:だから材料をそろえてから決めます(民法919条1項)
査定を頼んだだけでは期限は延びません。期限が近い方は家の調査が終わるのを待たず、放棄や期間伸長の申立てを専門家に相談してください。年末年始をはさむ方も、裁判所の受付と提出方法を早めに確かめておきましょう。
▶ 誰に何を聞くか、4つに分ける
全部を一つの相手に聞こうとすると、迷いは大きくなります。聞く相手を分けてみてください。
| 聞きたいこと | 聞く相手 |
|---|---|
| 放棄できるか・何をしたら放棄できなくなるか | 弁護士・司法書士 |
| 放棄の申述(申し立て)そのもの | 家庭裁判所 |
| 借金・保証があるかの調べ方 | 弁護士・司法書士(信用情報機関への開示など、方法を案内してもらえることが多いです) |
| 家の値段・売れるまでの期間・手取り | 不動産会社 |
私が答えられるのは、いちばん下の段だけです。売却専門でやってきた者として、ここはきちんと出せます。上の3段は、不動産会社が答えてよい範囲の外。私も「放棄しても大丈夫ですよ」とは言いません。以下、法律判断を相談する弁護士や、申述書作成・登記等を相談する司法書士を「専門家」と呼びます。依頼内容によって担当できる業務の範囲は異なります。
聞く相手が分かったら、次は何と何を比べればいいのか。第2章で「2枚の紙」にしていきます。
第2章:放棄か売るかは「借金の紙」と「家の紙」の2枚で比べる
▶ 放棄すると、家だけでなく預金も受け取らない
まず押さえておきたいのは、相続放棄は「家だけ要らない」という選び方ではない、ということです。放棄をすると、家も、お父様の預金も、借金も、まとめて受け取らないことになります(裁判所の案内)。
Aさんにも「長屋は手放したいけれど、父の通帳のお金は…」という気持ちがありました。ごく自然な気持ちです。だから比べる相手は「家の値段」だけでは足りません。預金なども含めた、プラスの全体です。
▶ 2枚の紙に書くこと
| 借金の紙 | 家の紙 | |
|---|---|---|
| 書くこと | 借入・保証・税金や病院代などの未払い | 売れる値段の幅・売れるまで何か月・かかる費用・手取り |
| 誰と調べるか | 弁護士・司法書士 | 不動産会社 |
| 足すもの | — | 預金など、ほかの相続財産(保険金は受取人・契約内容を別に確認) |
家の紙には「売れる値段」だけでなく、費用を引いた概算と、まだ引いていない項目を書きます。20年この仕事をしてきて、いちばん見落とされやすいと感じるのがここです。
まずは売却費用を引いた比較用の概算を出します。最終的に使える手取りとは区別してください。
比較用の概算 = 売れる値段 −(仲介手数料+登記・測量・解体・片付け等の見込費用)
この概算は、譲渡所得税等・未計上費用・ローン返済を引く前の数字です。実際の手取りはこれらを反映しますが、借金の紙で数えたローンを家の紙からも引くと二重計上になります。同じ債務を一度だけ数える形にそろえましょう。
死亡保険金は一括して相続財産へ足しません。特定の受取人の固有財産なら、相続放棄後も受け取れる場合があります。契約・受取人を専門家と確認し、相続税上の扱いとも分けて整理してください。
古い長屋だと、測量や片付けの費用が意外にかさむことがあります。「1,000万円で売れるらしい」と聞いて安心したら、引き算の後は思ったより少なかった、という話は珍しくありません。費用の内訳と、お金がいつ入っていつ出ていくかは、こちらの記事に日付順でまとめています → 家を売ったお金が入る日と手取り
▶ 比べ方は3パターン
2枚がそろったら、次の3つのどれに近いかを見ます。
| パターン | 状態 | 次にすること |
|---|---|---|
| ① | 借金の紙のほうが明らかに重い | 放棄を弁護士・司法書士と検討する |
| ② | 家の紙(+預金など)のほうが明らかに重い | 相続して売る方向で、専門家に確かめながら進める |
| ③ | どちらとも言えない・借金の額がまだ分からない | 期間を延ばす申立てや、「限定承認」(プラスの財産の範囲でだけ借金を引き継ぐ方法。相続人全員でそろって申し立てます)という方法があることを知ったうえで、専門家に相談する |
仮の数字で見てみます。税金等も見込んだプラスの相続財産が600万円、まだ差し引いていない借金が200万円なら、②に近い。逆に、比較用の概算が200万円でも保証の額が分からないなら、③です。この数字は説明のための例で、あなたの家の目安ではありません。
どちらが重いかを最後に決めるのは、ご家族と専門家です。私の役目は、家の紙をできるだけ正確にすること。では、紙をそろえるまでの3か月、何をしてよくて何を待つべきか。次の章で色分けします。
第3章:3か月のうちに「調べてよい」「聞いてから」「決めるまで待つ」を色分けする
▶ 片付けかけて、手が止まった日
Aさんは最初の週末、冷蔵庫の中身を捨て、タンスの服をゴミ袋に詰め始めていました。そこへ親戚から「触ったら放棄できなくなるって聞いたで」と言われ、手が止まります。じゃあ雨戸も開けたらダメなのか、郵便物を見るのもダメなのか。何もかも分からなくなってしまいました。
▶ 3か月の色分け表
| 色 | 意味 | 当てはまること |
|---|---|---|
| 青 | 調べる | 固定資産税の通知書・権利証の場所を確かめる/登記簿(登記事項証明書)を取る/家の外と中の写真を撮る/値段の目安を聞く |
| 黄 | 専門家に聞いてから | 片付け/修繕/電気・水道・ガスの解約/鍵を誰が持つか |
| 赤 | 方針が決まるまで待つ | 家財を売る・捨てる/売却の依頼・媒介契約や売買契約への合意(署名前も注意)/お父様の預金からの支払い |
青は見る・調べる作業、黄はやり方で意味が変わりうる作業、赤は財産を動かしたり売る約束をしたりする作業です。この表は法律上の可否を決める表ではなく、考える順番の目安です。財産の処分は単純承認とみなされる場合があるため、放棄を考えている間は先に確認します。保存のために急ぐ対応も、放置せず専門家に相談してください。あなたのケースで何が問題になるかは、専門家に確かめてください。
家財を先に処分することと、相続の扱いの関係は、以前こちらの記事で少し書きました → 相続した家を片付ける順番
▶ 値段を知るために、片付けは要らない
ここは売却の側から、はっきりお伝えできることです。査定(家の値段の見積もり)は、片付けの前でかまいません。家財が残った状態で査定できます。ただし、撤去費用や現状渡しの条件によって、売却費用や最終的に残るお金は変わります。
冷蔵庫も服も、そのままでいい。「値段を聞くために、まず片付けなきゃ」と焦らなくて大丈夫です。青の作業だけで、家の紙は作り始められます。
▶ 鍵を持っている人は、ひとつ確かめておく
もうひとつ、知っておいてほしい決まりがあります。2023年4月の民法改正で、放棄した人が家を守る(保存する)義務の範囲が変わりました。義務を負うのは、放棄の時にその家を「現に占有」している場合に限られます(民法940条)。
お父様と同居していた方や、鍵を持って出入りしている方は、これに当てはまるかもしれません。鍵を持っているだけで一律に決まるわけではありません。該当する場合は相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで保存義務が続くので、鍵の扱いや引渡し方法も専門家に確認してください。
青の作業が分かったら、いよいよ家の紙を作ります。次の章で、名義がお父様のままでも値段を聞ける段取りを見ていきましょう。
第4章:家の紙を作る|亡くなった親名義のまま、値段と期間の目安を集める
▶ ①自分でできること:通知書を読む
最初に開くのは、毎年春ごろに届く固定資産税の通知書(納税通知書と課税明細書)です。実家の引き出しや、お父様の書類入れに入っていることが多いです。
ここで見るのは、土地と建物の「所在」と「面積」。長屋の場合、土地が何筆かに分かれていることもあるので、並んでいる行を全部メモしておいてください。権利証(登記識別情報)もあれば場所を確かめるだけでOK。持ち出さなくてかまいません。登記識別情報の12桁は、写真やLINEで送らないでください。
近所でいくらで売れたかを自分で調べる方法は、こちらに書いています → 売れた値段を自分で調べる方法
▶ ②不動産会社に聞く:伝えること・聞くこと
次に、不動産会社に値段の目安を聞きます。査定には、資料だけで出す「机上査定」と、家を見て出す「訪問査定」の2つがあります。違いはこちら → 机上査定と訪問査定の違い 。売るか決めていない段階で査定だけ頼んでいいのか、という不安にはこちらで答えています → 売るか未定の家で査定だけ頼むには
頼むときは、最初に次の3つを伝えてください。
- 名義人(お父様)は亡くなっている
- 相続放棄をするか、相続するかをまだ決めていない
- 家財には触れないでほしい
そして、聞くのは次の4つです。
- 値段の幅(一点ではなく「◯◯万〜◯◯万円」)
- 売買契約までと、決済・入金まで、それぞれ何か月くらいか
- かかる費用の内訳(測量・解体・片付けが要りそうか)
- 手取りの見込み
放棄を迷っていると最初に伝えておけば、相手も「売る前提」で話を進めにくくなります。値段を聞くことが法律上どう扱われるかが気になる方は、先に専門家に一言確かめておくと安心です。
私のところでは、相続放棄を迷っている段階でも査定をお受けしています。家以外の財産(預金や借金など)のことはアドバイスできませんが、家の値段は、放棄するかどうかを決める材料の一つになるからです。
この段階は目安を知るのが目的なので、まず1〜2社で十分です。相続して売ると決めて、本格的に比べるときは3〜4社に頼むのがおすすめです。2社だと、どちらが高いのか安いのかの見当がつけにくいためです。
▶ ③家の紙のひな形
聞いた答えは、次の表にそのまま写してください。紙でもスマホのメモでもかまいません。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 住所 | 通知書の「所在」 |
| 面積 | 土地◯㎡・建物◯㎡(通知書から) |
| 値段の幅 | ◯◯万〜◯◯万円 |
| 売れるまで | 売買契約まで約◯か月/決済までさらに約◯か月 |
| 費用の内訳 | 仲介手数料・登記・測量・解体・片付け |
| 比較用の概算と未計上項目 | ◯◯万〜◯◯万円/税金・未計上費用・ローン返済を別記 |
| 聞いた会社・日付 | ◯◯社・◯月◯日 |
この1枚が、第2章の天秤の右の皿に載る紙です。
▶ 相続して売ると決めたら、何か月かかるか
もし話し合いの結果「相続して売る」と決めたなら、その後の流れも知っておくと、期間の見通しが立てやすくなります。
まず相続人と遺言等を確認し、誰が売主となるかを確定します。相続人が複数で遺産分割をする場合は協議書を用意します。相続人が1人なら遺産分割協議は不要です。売る権限と条件が確認できれば、相続登記の完了前でも媒介契約・売り出し・売買契約を進められる場合があります。決済では買主への所有権移転と抵当権抹消を確実に行える状態が必要です。事前に終える登記と、決済当日に連件で申請できる登記を司法書士・銀行と確認し、契約の日程に反映してください。古い抵当権の調査も含め、準備は数週間〜数か月以上かかる場合があります。
売り出すときは、レインズ(不動産会社どうしが物件情報を見られる仕組み)に登録して、他社が連れてくる買主様にも紹介します。私は自分の会社のお客様だけに絞る「囲い込み」をしません。古い長屋ほど、買主様の入口は広いほうがいいからです。
値段の目安を聞きたいけれど、どこに頼めばいいか迷ったら、公式LINEに送ってください。送る物は「固定資産税の通知書の写真」と「家の住所」の2つ。放棄を迷っていることも、そのまま書いてもらってかまいません。→ 公式LINEで相談する
「でも、うちは古い長屋やし…」と思った方。次の章は、まさにその家の話です。
第5章:大阪市の古い家(長屋・連棟・再建築不可・借地)は、値がつかないと決める前に3つ確かめる
▶ 「長屋は売れへんで」と言われた日
Aさんは近所の方に「この辺の長屋は売れへんで」と言われていました。東成区や生野区のあたりには、隣と壁がつながった古い長屋や連棟がたくさん残っています。でも「古い」の中身は、家ごとにかなり違います。
▶ 確認①【道】:前の道
家の前の道が、建築基準法上の「道路」で、そこに土地が2m以上接しているかを見ます(建築基準法43条)。接道だけで建て替え可能と確定するわけではなく、ほかの建築条件も市の窓口や建築士に確認します。これが満たせないと、今の家を壊したあとに建て直せない「再建築不可」になることがあります。前の道が個人の持ち物(私道)の場合も、確かめることが増えます → 私道の資料と承諾書の確認
▶ 確認②【壁】:建物のつながり
連棟は、隣の家と壁を共有しています。お隣と切り離して自分の家だけ壊せるのか、切り離さずにそのまま売るのかで、売り方も費用も変わります。図面や登記簿で、建物が1つの登記なのか、別々の登記なのかを見ておくと話が早いです。
▶ 確認③【土地】:土地の権利
土地がお父様の持ち物なのか、地主さんから借りている「借地」なのか。借地の場合、土地を借りる権利が賃借権なら、建物売却に伴う借地権の譲渡には原則として地主さんの承諾が必要です。承諾が得られないときの手続きもあるので、そこは専門家に確かめてください。地代の領収書や、地主さんとの契約書が残っていないか探しておくといいでしょう。
▶ 再建築不可でも、買い手がいる場合はある
3つのどれかに引っかかっても、それで終わりではありません。再建築不可の家でも、今の建物を直して使いたい方や、隣の土地と合わせたい方など、買い手がいる場合があります → 再建築できないと言われた家の売却
仲介で買主様が見つかりにくい家なら、買取業者に売るという出口もあります。私は自分の会社で直接買い取ることはしません。ただ、売主様が希望される場合や、そのほうが売主様のためになる場合は、できるだけ高く買ってくれる買取業者を探します。
▶ 放棄のほうが良い家もあります
ここは正直に書いておきます。値段よりも解体・片付け・測量の費用のほうが大きくなる家もあります。借金の額によっては、放棄のほうがご家族のためになる場合もあります。
「国に引き取ってもらえないの?」と考える方もいるかもしれません。相続土地国庫帰属制度という仕組みはありますが、建物が建ったままの土地は対象外です。国に引き取られた件数は、全国で3,231件(2026年9月30日時点・法務省)。長屋が建ったままの実家で、すぐに使える出口とは言いにくいのが実際のところです。
道・壁・土地を確かめたうえで放棄を選ぶなら、それも立派な判断です。売らないほうがいい家に、私は「売りましょう」とは言いません。
次の章では、きょうだいで考えが割れたとき、そして全員が放棄したときに、実家がどうなるかを見ていきます。
第6章:きょうだいで割れたとき・全員が放棄したとき、実家はどうなるか
▶ 妹さんは「放棄したい」と言っている
Aさんがようやく電話すると、東京の妹さんは「私は放棄でいい。そっちで決めて」と言いました。Aさんは「自分だけで決めていいのか」と、かえって重くなってしまいます。
▶ 一人が放棄したら、残った人で進める
放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。妹さんが放棄すれば、Aさんが残った相続人として、受け継ぐか、売るかを考えていくことになります。
逆に、Aさんが放棄して、妹さんは相続する、という分かれ方もありえます。相続人が1人だけなら遺産分割協議は不要です。複数人が相続する場合は、遺言等を確認したうえで必要な協議を進めます。きょうだいで相続した実家の話し合いの前にそろえる材料は、こちらに書いています → きょうだいで実家を売る前の話し合い
▶ 全員が放棄したら、次の順位の人に回ることがある
子ども全員が放棄すると、相続は次の順位の人に回ることがあります。順番は次のとおりです。
- 亡くなった方の父母・祖父母などの直系尊属(親等の近い人を優先)
- 該当する直系尊属がいなければ、亡くなった方のきょうだい(あなたから見て、おじ・おば)
- きょうだいが先に亡くなっている等の場合は、その子どもである甥・姪(あなたのいとこ)が代襲することがあります
配偶者がいれば別に相続人となります。また、放棄そのものを理由として放棄した人の子が代襲相続するわけではありません。戸籍等で個別に確認してください。知らないうちに相続人になって、驚かれることもあります。放棄するなら、次に回りそうな方を紙に書き出して、事情を伝えておくと親切です。連絡がつかない相続人がいる場合の考え方は、こちらで書いています → 相続人と連絡が取れないとき
相続人が誰もいなくなった場合は、利害関係人等の申立てによって、家庭裁判所が「相続財産清算人」という人を選んで、財産を整理する手続きがあります。申し立てには、予納金(あらかじめ納めるお金)がかかることがあります。額は事情によって変わるので、家庭裁判所で確かめてください。
▶ 固定資産税の通知は、どうなるか
固定資産税は、毎年1月1日時点の持ち主などにかかります(地方税法359条)。放棄を考えている途中で年をまたぐ場合、通知が誰に届くか、どう対応するかは、大阪市の市税事務所に確かめるのが確実です。売る日の固定資産税の考え方はこちら → 固定資産税の精算方法
残った相続人で売ると決めたら、第4章の「相続して売ると決めたら」の段取りがそのまま使えます。
ここまでで、大きな流れは一通りです。次の章では、よく聞かれる質問に答えます。
第7章:よくある質問
▶ 「片付けたら、もう放棄できないんですか?」
中身しだいなので、片付ける前に専門家に聞いてください。何を、どこまでしたかで扱いが変わりうるからです。なお、値段を知るためだけなら、片付けは要りません(第3章)。
▶ 「値段を聞いたら、売らないといけなくなりますか?」
値段を聞くことと、売る約束をすることは別です。媒介契約は会社へ仲介を頼む契約、売買契約は買主へ売る契約です。署名前でも口頭などの合意内容が問題になる場合があるので、査定だけを頼むことを明示し、依頼や契約に進む前に専門家へ確認してください。
▶ 「長屋で値がつかないと言われました。もう放棄ですか?」
1社の答えだけで決めないでください。道・壁・土地の3つを確かめると、売り方が見つかることがあります(第5章)。
▶ 「妹は放棄したいと言っています。私だけ相続して売れますか?」
放棄した人を除いた相続人で進められます。相続人が1人なら遺産分割協議は不要です。複数なら遺言等と必要な協議を確認し、売主と権限を確定してから契約・登記の日程を調整します(第4章)。
それでは最後に、今日から何をすればいいかをまとめます。
第8章:まとめ+今日からやること
▶ まとめ
- 役割を分ける:放棄するかは弁護士・司法書士と。不動産会社には「いくら・何か月・いくら残るか」だけを聞く
- 2枚の紙で比べる:借金の紙と、家の紙(手取り+預金など)を並べる
- 3色で動く:青は調べる、黄は聞いてから、赤は決まるまで待つ
▶ 今日できること(1つ)
家財には触らずに、固定資産税の通知書と権利証の置き場所を確かめてください。見つかったら、通知書の「所在」と「面積」の行をスマホで撮っておく。それだけで、家の紙の1行目が埋まります。
▶ 1週間以内にすること
- 借金・保証の調べ方を、弁護士・司法書士に相談する予約を入れる
- 家の値段の目安を1〜2社に聞く(最初に「放棄を迷っている」と伝える)
- きょうだいと「2枚の紙」を一緒に見る日を決める
放棄の相談先は、お近くの弁護士・司法書士か、家庭裁判所の案内を使ってください。お心当たりがなければ、ご要望に応じて私から弁護士・司法書士をご紹介することもできます。
▶ 相談したくなったら
この記事を材料集めの目安にし、法律判断や申立ては専門家・家庭裁判所に確認してください。そのうえで「うちの家だと、手取りはどのくらい?」と思ったら、公式LINEで声をかけてください。
送ってもらうのは「固定資産税の通知書の写真」と「家の住所」の2つで十分です。放棄するか、売るか、まだ決める必要はありません。
相談には代表の私が2日以内を目安にお返事します。営業電話はしません。
▶ 次に読むなら
- 放棄せず、きょうだいで売ると決めた方へ → きょうだいで実家を売る前の話し合い
- 相続して売ると決めて、片付けの順番を知りたい方へ → 相続した家を片付ける順番
- 古い家を壊してから売るか迷っている方へ → 古家付きと更地渡しの比べ方
おわりに
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
親を見送ったばかりのときに、「3か月」「借金」「放棄」という言葉が一気に押し寄せてくる。気持ちの整理もつかないうちに大きなことを決めなければならないのは、本当にしんどいことだと思います。
期限に余裕があれば、今日すべてを決める必要はありません。期限が迫っている方は、紙がそろうのを待たず申立ての相談を優先してください。茨木へ帰る電車の中のAさんにも、今夜できることは通知書を1枚探すことだけでした。紙が2枚そろえば、あとはご家族と専門家と一緒に、納得できるほうを選べます。その1枚が、あなたとご家族が落ち着いて話し合うための、最初の手がかりになりますように。
制度の確認先(2026年10月29日確認):相続の期間伸長(裁判所) / 死亡保険金と相続放棄(法テラス) / 相続人の範囲(国税庁) / 相続土地国庫帰属制度の統計(法務省)















